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2009年2月27日 (金)

JASRACが「踏み外した一歩」-放送事業者との包括契約に独占禁止法違反決定-

少し前に「そういう方向の決定がでる」とされていたとおり、公正取引委員会は「JASRACが放送事業者との間で行っている包括契約は独占禁止法違反」として排除命令を出した。

もちろん、JASRACは「承服できーん!」と徹底抗戦の構えだし、放送局等も今後どうするか「要検討」だという。

まったく何も「独占禁止法」というものを考えなかった場合、「実際に使用した曲を全部管理して、1曲毎に利用料を積算するのは放送局もJASRACも面倒だから、放送局の収入に対して一定の率で使い放題」という包括契約は「合理的」だし、たとえばいくつかの動画サイトが契約している包括契約と、どう違うんだ?とも感じてしまう。

しかし、実は独占禁止法においては、「強者と弱者がまったく同じ仕組みをやると、強者が圧倒的に優位」であるような行為そのものについて、強者だけが「アウト」になるのがミソ。

たとえば、市場において強者である(モノにもよるが、60%とか70%とかシェアを持っていれば強者であろう) A社の商品A1とA2がある。弱者B社の商品B1,B2がある、弱者C社の商品C1,C2がある。A1,B1,C1 と A2,B2,C2がそれぞれ類似性が高く、1 と 2 を組み合わせて利用すると利便性が高いとする。 A,B,Cのそれぞれで、基本的に価格や品質に大きな差はないとしよう。

この状況で、B社が販促戦略として、「B1+B2をセットで買うと割引」とか、B社とC社が連携して「B1、C1のいずれかを買うと豪華景品」とかやっても、何も問題ない。どこかの流通会社と、B社が独占的供給契約(ただし激安)を結んだとしても、「スルー」である。

が、A社が「A1+A2をセットで買うと割引」とやると「イエローカード」だし、それらの流通先に対して「B社、C社の商品置かなかったら仕入れ値を引きますよ」ってのは「レッドカード」である。

なんだかA社にとっては理不尽であるが、独占禁止法というのは「経済取引の自律的な最適化」に任せておくと強者の寡占が進行し、やがて価格決定等で競争原理が働かなくなることで、結果的に消費者の利益を損なう、という結果を「招かないように」、「自律的な最適化」のプロセスに対して法的・強制的に干渉するものだから、強者にとって不平等で理不尽なのは当たり前なのだ。

さて、そうしてみた場合、先の動画サイト等のケースに比べて、放送局がなぜ問題なのか、またJASRACが「やっちまった」致命的な失敗はなんだったのだろうか?

動画サイトの契約との違いは、放送のほうは最初、JASRACのみが管理業務者であり、実質的に全楽曲で放送に関する権利管理はJASRACのみでカバーされていたこと。

動画サイトは法律的には放送じゃないので、放送の許諾とは楽曲管理の委託範囲が異なっていて、JASRACだけではもともと全曲カバーしていない状況の中で、それぞれの管理会社と包括契約をした(そうしないと、使えない曲が出るから)ということになる。

では2点目、「JASRACのやっちまったぁ」であるが、先のリンクにある公正取引委員会のPDFファイルのうち、5ページ目、2(1)の次(2)が致命的だったのではないか?引用すると

平成17年9月下旬,当該協議の場において,民放連から,前記1(5)のイーライセンスの放送等利用に係る管理事業への参入の動きがあったことを受け,民間放送事業者から本件包括徴収により徴収している放送等使用料の額を減額する意向の有無について確認されたが,減額する意向はない旨回答

「放送等利用に係る管理」に競合者が現れ、JASRACだけでは100%カバーできなくなった。放送局としては「それに応じて包括契約の金額計算レートを修正するんじゃないの?」と聞いたらJASRACは「ノー」と言って、そのまま締結になったのだ。

その時点ですでに100%ではなくても、限りなく100%に近い権利を持つJASRACの「ノー」に、放送局は対抗する手段がない。これは、JASRACが「誠実な協議の上の合意だ」とか「理論的にただしい」といっても、独占禁止法の位置づけからは「絶対に認められない行為」である。

JASRACは反論の中で、「JASRAC以外の曲の分だけ減額するには、それらの利用状況を個別管理するしかなく、放送局にとってもJASRACにとってもコスト的不利益が大きい」ということのようであるが、それもダメである。

もともと包括契約は「まぁこのくらい」と定義したものであって、楽曲の利用実績の累積ではない。そんな契約に基づく金額に対して「減額するなら楽曲単位」というのは、自動車を買うときに「タイヤ3個だけにして、1個分安い」とか、「4人乗りセダンの椅子を運転席以外とっぱらって、3席分安い」っていう交渉に近いナンセンスな話だ。

どうせ「まとめて値段」であるなら、その「減額」についても例えば「競争状態が発生して以後に、管理が委託された全楽曲に占めるJASRACのシェアで概算」するだけでも十分に合理的なはずだ。

それでも、100だった価格が99.99になる程度かもしれない。しかし、それで新規参入者には十分なのだ。原著作権者に対して、「うちに管理を委託しても、JASRACと比べてメディアの利用が落ちることはありません、不利は何もないんです」と説得し、管理委託の手数料をJASRACよりも値引きすれば、管理のシェアをJASRACから削りやすくなる。そうしてJASRAC以外への委託が増えれば、JASRACの収入は99.99から99.90になり、99.0になり・・・JASRAC自身も委託者に対してよりよい条件を出し、放送局からの値引き交渉にも応じないといけない、という状況が発生「しやすく」なる。

つまり競争が発生してJASRACが独占していた利潤が放送局や原著作権者へと流れていく。

それこそが独占禁止法が目指す「成果」なのだ。

JASRACは徹底抗戦だというが、勝訴の可能性は「減額を拒否した」という指摘自体が事実誤認であった場合だけ。

その一点だけが事実であれば、その周辺にどんな論理を組んでも、最高裁までやったところでJASRACは敗訴する。

「独占禁止法はそもそも法の下の平等を定めた憲法に違反する」とでも主張する?しかし憲法には「公共の利益」という「個々の自由、平等」より優先する理念があるので、それも絶対無理。

逆に言えば、その「踏み外し」さえなければ、公正取引委員会は排除命令を決定できなかったように感じます。

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