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2009年6月 9日 (火)

経済の再失速への時限爆弾となった「過度の景気回復期待」

「景気は下げ止まった」という意見が多くなってきた。

街角景気は5月も改善OECDでも「世界経済のフリーフォールは止まった」と。

日経株価も1万円を回復しそうな勢い、それも一瞬でバブル的に上がるのではなく毎日少しづつ上昇して、いかにも「これからも上昇する」ようなトレンドを示している。

定額給付金も5月になってからは大都市部での給付が始まったし、エコカーやエコポイント施策も本格化、補正予算も成立が秒読み・・・

表面だけを見れば、確かに景気が底入れ「しそうな要素」が山盛のように感じる。

だが、あまりにも危うい。

景気というのは、消費者や社会全体の「空気」そのものに反応して実体が動く面があるので、「イケそうな空気」というのは意外に無視できない効果をもたらすとはいえ、今の景気に対する期待は明らかに過剰だと思う。

1点目は、景気下げ止まりを感じさせる国内指標は、政策の力技による瞬間風速にすぎないこと。

エコポイント、エコカー補助、給付金のいずれも、効果は一巡しか持たない。

エコカー補助は成功したドイツの例に比べると、特に買い替え需要の促進効果はかなり小さい。13年落ち条件?たぶんもうローン終わってるはずなので、補助金があっても「新たな支出負担」が家計に発生するだろうし、では今でもそんな車に乗っている人が「新たな支出負担」に耐えられるような収入が得られる状態だろうか?

その他の減税などもあり、ハイブリッド車などは過去最高の販売台数といっているが、それも一巡してしまえば次の需要はないし、その「一巡」に対応するためだけに自動車メーカーは新規工場など大幅な設備投資なんかしないので、経済への波及効果は極めて限定される。

エコポイントも同じ。それによって作り出される需要は、予算枠に対する倍率(商品価格÷エコポイント率)を超えることはない。たしかに各種家電の売上は制度開始から対前年比で大幅に上回っているが、世界的には需要が減退していることもあって、各メーカーは「単純に生産調整」するだけで需要に応えることができていて、増産投資の話は出ていない。

今年の春闘では景気の先行きが見えず、夏の賞与は昨年に比べて大幅に圧縮された傾向にあるが、それによる需要減退くらいは相殺できるかもしれない。

しかし、産業への設備投資が抑止されている限り、それすらも瞬間的な効果であって、秋以降まで同じレベルの需要が継続するのか?というと極めて疑問だ。

2点目は、世界の回復テンポは日本よりも遅めに推移していること。

GMとクライスラーの破綻処理に関わる需要のマイナスはこれから本格化する。中国は莫大な予算を国で組んで景気刺激をしているが、それだけですべてを補うことはできない。

車や家電などはグローバル経済の需要に依存する状況であって、その需要量はまだまだ2-3年は供給能力を下回るだろう。

国内におけるエコカー、エコポイントによる需要が一巡した後に、それを引き継ぐ需要源がない状態が続く。

3点目は企業経営のベクトル。

08年度には多くの優良企業が赤字転落した。その結果、09年度には「競争力強化のため」「より少ない需要でも黒字を出せる体質にする」などと、どの経営者も緊縮前提の企業運営を迫られている。

つまり、産業需要はそもそも今年度から来年度にかけて大幅に縮小することが避けられない。それは「次に需要が大幅に回復したとき」に、より大きな景気上昇のためには必要なことではあるが、直近の1,2年を見た場合には明らかに景気を抑止する。

4点目は、今の「底入れ」を演出している原資は国の予算であること。

国の予算は基本的に税収に依存する。しかし、もともと日本は恒常的な赤字体質。

補正予算で今年度巨額の国債を追加発行したが、それを来年もするのは難しい。そして昨年度から今年度にかけて企業業績は悪化しているために今年度も来年度も税収はかなり減るはず(税還付などの支出もある)

そうなると、今の施策による需要を消化したら、次に施策的に消費需要を創出するのは極めて困難、ということになる。

5点目は、今後少しづつ、昨年後半からの失職者への失業給付が期限切れになること。

現時点では雇用回復の気配がない(新たな人員削減はしばらくないかもしれないが)

失業給付が止まれば、次は生活保護、となるかもしれないが、失業関係は膨大な積み立てを持つ労働関連の保険金から支出されるが、生活保護は前項でネタにした国の一般会計予算が原資になっているはず。つまり、それだけ今後の政策予算の自由度は減る。

また、こうした失業者からするとそういう状態が長期化すると感じれば、まずは貯蓄であってエコポイントもエコカーもへったくれもない。

世界の動きでいえば、2~3年後にはさまざまな歯車が噛み合って本格的に景気が回復する可能性はあると思うが、問題は「そこまで、政策需要で国内の回復気分を引っ張れるか」だろう。

今は、株価にせよエコノミストにせよマスコミにせよ、あまりにも楽観的すぎて、政策による需要が息切れして「底入れ」したはずの指標が再び下降しはじめたら、それこそ底が見えないネガティブな方向へ一気に反動が来るのではないか?

そうすると企業もいっそうのネガティブ行動に走って、実は世界の景気回復に乗り遅れて「バブル崩壊後の失われた10年」の悪夢を再現しかねない。

5月には久しぶりに倒産件数が前年比で減少し、「中小企業向けのセーフティネットが効果を出した」とか言われているようだが、逆にいえば「需要がない中で融資を運転資金として消耗していて、返済のアテがないまま延命されている」ともいえる。

今の一時需要をつなぐはずの補正予算は、前の記事に書いたような事情もあって、需要をつなぐには力不足だろう。

世界的な景気の底入れ、また「それらの各種要因」による国内の設備投資が上向き始めるのが早いか、一時消費需要がタマ切れを起こすのが早いか?

今の経済状況はそんなギリギリのところにあると思うし、そのあたりの感覚は経済を俯瞰できる立場の人はみんなわかっていると思うけど・・・なんで株価はこんなに好調なんだかさっぱりわからん。

・・・みんな、証券会社のアオリにだまされてないか?(^^;)

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コメント

今日の我が国の不景気の原因は従来の景気循環による不景気とは異なるものです。
<不景気の原因1>
今日の我が国の不景気は欧米の新しいマネーゲーム資本主義に飲み込まれてしまったものであると思います。
世界に影響を与える欧米経済は、財貨の生産と消費からなる実態経済から金融中心の経済(実態のない虚業経済)に変貌してしまいました。金融とは本来実態のある経済活動の潤滑油として機能すべきものでありますが、金融は本来の役割を逸脱して、金が金を生むマネーゲームにのめり込んでしまいました。(欧米信仰の日本政府も平成14年頃から次々と銀行業法改正など、金融業の規制緩和を行いました。金融ビッグバンと呼ばれるもので、これによって日本の金融機関もマネーゲームができるようになりました。)
金融機関のマネーゲームの破綻は実態経済の潤滑油機能としての金融をも麻痺させてしまいました。
<不景気の原因2>
課税平等主義の経済政策による内需の疲弊による構造的不況

昭和時代末期に我が国の租税による経済政策は、所得再配分政策から平等主義政策に大転換しました。その結果、所得の格差が拡大し、低所得者層が増加して国民の購買力がなくなりました。企業は売上が増えないので人件費を削減して利益を出しました。その結果、人件費の削減分だけ国内売上がなお減りました。つまり労働分配を減らせば一時的に企業の利益は出ますが、労働者の給料はそのまま国内の購買力そのものなので内需がなくなるのです。
日本の高度経済成長期には、利益を出した会社からは高額の法人税を徴収し、たくさん儲けた個人からは多額の所得税を吸い上げて国の運営の財源とし、国民の所得の平準化を図りました。その結果「国民1億総中産階級」となり、国内の購買力は増し、企業は物を造れば飛ぶように売れ、2桁%の経済成長を実現したのでした。
現在の我が国の経済政策は結果として貧富の格差拡大政策になっています。物が買えない貧乏人からも消費税を取ります。貧者の拡大再生産の経済政策を取り続ける限り、内需は限りなく縮小してしまいます。企業は内需がなければ外需つまり輸出に事業をシフトします。輸出頼みの日本経済は世界のどこかのちょっとした変動でもあっという間に沈没してしまいます。
堅調な内需、堅調な国内購買力、つまり国民の所得格差を作らない政府の経済政策があれば、今回ほどの大規模な不可解な不景気は起こらなかったに違いありません。

<処方箋>
今回のような新しい形の不景気を発生させないためには、(1)金融業者のマネーゲームを禁止するための規制(日本の高度経済成長期の金融業法に戻ればよいだけのことです。)と(2)内需=国民の購買力を拡大するための租税政策(日本の高度経済成長期の税制に戻せばよいだけのことです。)をとること、であると思います。

生活保護家庭から徴収した消費税で麻生総理の議員報酬を賄うのではなく、麻生総理の報酬から多額の所得税を徴収して生活保護家庭の購買力を増やすことが景気回復の原動力になる、と私は思います。

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