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2009年6月 2日 (火)

「基金への大盤振る舞い」補正予算に見る問題の本質

Nifty(日刊ゲンダイか?)のこんな記事 に指摘があるように、衆議院を通過した補正予算では「基金」への支出で金額が水増しされているとか、無駄遣いとか、そんな指摘があちらこちらで言われている。

ただ、私は「それは仕方がない」ことであって、「仕方がない」理由そのものが、日本の行政・国政運営における致命的な問題だと感じている。「致命的な問題」とは・・・

政治家の体質?   No。
自民党の体質?   No。
官僚体質が悪い?  No。
業界との癒着?   No。

私が思うに、今の日本には「景気対策予算を、景気対策になるように執行するマンパワーも仕組みもない」のである。

まずは この資料【財務省:平成21年度一般会計概算要求額調】 を見て欲しい。(もっと良い最新の情報があると思うけど、検索が面倒になったので、これで。)

一般歳出は 約47.8兆円。そのうち、義務的支出が34兆円、つまり義務的でない、国が「施策として執行する予算」は、13兆円。

これは一般会計であって、各種の特別会計はまた別の議論になるが、少なくとも一般会計では、予算のほとんどが行政事務そのものを動かしたり、社会保障を含む各種の給付などに「決まって」いる。

で、決まっていること自体も問題は問題なんだけど、むしろ「決まっていないものは13兆円しかない」ということ。

13兆円には、複数年継続の公共事業など、毎年一定の作業が必要で継続しているものも非常に多いだろう。
では、それを予定どおりに執行しながら、「従来と違った予算を10兆円以上執行する」ことは可能なのだろうか?

予算を執行するにはそれなりのマンパワーがいる。

例えば、国の事業は内容によって定められた金額以上だと、すべてWTO調達である(自治体も金額基準は違っても、一定以上の規模だとWTO調達が求められることが多い)。WTO調達ということは、まず入札のための仕様をきちんと策定し(これだけでも膨大なマンパワーが必要だ)、一定期間の公示期間を経るまで、その事業を「誰がやるのか」すら決まらない。落札者が、事業に着手して、下請けや機材を発注するかたちで「社会にお金が落ちる」までにはかなりの時間がかかる。

もちろん、行政の仕組みには「一定の規模で」そういう事務のパワーが織り込まれているが、それは毎年それほど量(前述の13兆円)が変動しないことが前提。

突如として「丸々1年分に相当する新規事業を追加発注しろ」といわれたら、そういうマンパワーは2倍必要になるわけだけど、年金問題のチェックや相談と違って、事業を選別して、仕様を起こして、入札やってというのは高度な専門スキルが必要だし、談合とかを考えると民間へ丸投げもできないから、「臨時に1000人雇用してこういう仕事やらせます」ってわけにいかんでしょ?

「地方へ交付して、地方で使えば」と思うかもしれないが、都道府県や市町村だって今や「通常年の業務以外の新規事業にまわせる人手」なんかない のである。

地方への交付金や、基盤整備とかの基金ができて地方は喜んでいるか?

知事や市長は歓迎だというかもしれないが、役所の人々はパニックであろう。(実際、今までのルールの外にある補助金や交付金については、所管省庁が各地域で使い方や事務手続きの説明会をしたり、専用の(市役所等向けの)相談窓口作ったり、大騒ぎのようである。

人口が多い自治体は、さまざまな仕組みをITシステムに依存しており、既存の制度に手を入れるにもまずシステムの改修から着手しないと業務なんてできないし。

要員がもっとも合理的な費用対効果を発揮するのは、「必要な事務をギリギリでこなせる人数」である。そこへ向けて自治体などは近年、ずいぶん人件費削減を進めている。

そうやって「バッファ」がなくなったところへ「はい、金やるから効果的に使って」といわれてもどうにもならない。

これを読んでいる民間企業の方、想像して欲しい。

あなたの部署に、突如として「今の要員で行使できる予算」の倍の予算を使えと指示が来た。

ただし、その予算は

・無駄に使ってはいけない。
・組織内部の経費に使ってはいけない。
・会社の事業に有効であるように使え。
・現在の下請けや外注先に任意で発注してはいけない。かならず複数の候補を選定し、コンペティションを行って選定すること。コンペティション案件は一定の応募調整期間を設けること
・発注決定した相手側で、不要な形に発注費用が流用されないようにチェックすること
・税務や会計監査等で不適切とされるような支出をしてはいけない。
・今から1年以内にすべて支出と検収を終わること
・なお、本件のために新規の要員を配属・雇用することはない

といわれたら、できますかね?

2008年10-12月期の需給ギャップが25兆円くらいとかいう説があって、それに対応するにも10兆円以上の・・・とかいう議論が先に決まって、ところが行政機関には「継続案件を含めて13兆円の執行パワーしかない」という状況では・・・・・天下り先であろうが無駄と批判されようが、基金という形で「執行する権限とその事務」を丸投げするしかないだろ、って気がします。

たとえば、今後5年間は毎年2兆円使って施策をやっていい、とかいうなら、どこの省庁も自治体も本当に歓迎でしょう。

しかし「景気対策」なので、一気に執行しないと今度は「景気対策の予算なのに、ちっとも発注されない。行政の怠慢だ」とかマスコミは騒ぐでしょうし。

そう考えると、「基金へ叩き込む」のは、「毎年2兆円づつ5年間、やりたい施策に金を使える」わけなので、無理やり発注執行するとの一長一短じゃないかと思います。

もちろん、今回の予算はそういうドサクサにまぎれた「本当に、どう考えても無駄」なものもあるでしょうけど、それ以外の部分の何兆円かを、「景気に効果があるように」執行するには、どうすりゃいいんでしょうかね?使途じゃなくて、執行のプロセスという点で。

今回の予算への批判にしても「もっとこういう用途に」的な指摘はあっても、その用途へ「不適正を防止しつつ、短期間で、資金を流すプロセス」にまで言及されているものはほとんどないように感じます。

そして、恐ろしいのは「これが日本の行政力の限界である」ということ。

ものすごくクレバーでリーダーシップに満ちた首相が突如現れても(爆笑)、強力な内閣ができても、政権交代があっても、そういう政治の世界がどんな施策を打ち出しても、それを執行するパワーそのものがないのだから、事態は何も解決しません。

結局、すでに日本は「公共支出で需給ギャップを埋める」ということが実質的に不可能な国になっているのです。

景気が悪くなったときに取れるのは、以前に記事にしたように「数年のスパンで国が目指す姿」を示して、民間企業がそこへ向かって投資をするように誘導し、その誘導手段として補助金や税制優遇を行う、という政策だけなのだと思います。

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